りさこさんが、ハーピストを目指す後輩たちに贈る暖かいメッセージ。
ピアノからハープへの華麗なる(?)転身、そしてプロハーピスト誕生の秘密が今、明らかに。
産経新聞「モーストリー・クラシック」の御好意で、記事と写真を転載させて頂きました。


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産経新聞「モーストリー・クラシック」2006年10月号掲載
夢を繋いで ─音大生へ贈る─
社会で活躍する音大卒業のOB・OGたちが、音楽界の 将来を担う後輩たちへ思いのたけを込めてメッセージを贈ります。
第8回 早川りさこ ハーピスト 東京芸術大学音楽学部器楽科卒業
必死に曲を読んで、練習して、本番を迎える日々
ソロの次の日にはオーケストラの仕事
ハープが必要とされればどこへでも飛んで行きます
1.ソリストとオーケストラ、並行した活動を
 ほとんどの学生がソリスト希望だと思います。 ハープという楽器はピアノと一緒で、ひとりで1曲を完結できる楽器なので。

 でも色々な舞台を踏んできて思うのは、ソロ 活動にもオーケストラの経験は役立つということ。「私はソロ希望なので、オケでやるのはちょっと」と、言う人が時々 いるんですけど、もったいないなと思います。

 他のパートを 聴きながら弾く習慣があれば、ソロの時にも「これがベー ス、これがフルート」というように、構造の分析もできる。室 内楽の経験もいいですね。
 
 また、素晴らしい指揮者が来た時、どんどんオケの音が変わっていく体験は、協奏曲を弾く時にも役立ちます。
 
 私自身、オーケストラで「アンサンブルってこんなに楽しいんだ」と感じたんです。皆がハープの音色を味わってくれて、互いの存在を意識し合って演奏する喜びを知って、「こんなに楽しいなら、毎日やれたらいいな(笑い)」 と思い、N響に入団しました。降り番の時に、ソロのスケジュールを入れればいいので、意外と制約はありません。
 
 ただ ソロとオケでは集中力の使い方が違うので、気持ちの切り替えは必要ですね。


2.プロ奏者への目覚め
 大学時代は正直、プロのハーピストになろうとはあまり思っていなくて、フュージョン・バンドでキーボードに熱中してました(笑い)。

 ハープは自宅に母の楽器があって、小学校3年生から母の先生であるヨセフ・モルナールさ んのところに、ものすごくゆっくりなペースで何となくは通っていました。中学校1年生になって本格的に始めたのも、「ハープをやるからピアノを辞めさせて」と、強制的に習わされていたピアノを辞めたかったからなんです。
 
 大学卒業直前、教育実習に行った学校で学生に「夢は何ですか」と聞かれて、「おばあちゃんになってもバン ド・ミュージシャンでいたいと思ってる(笑い)」と答えたら、「ハープを弾いている方がいいですよ」って。まだ15、6歳の子たちにそう言われて「なるほど、それもいいかな」 と、思いました。

 その頃CM録音の仕事等で、リアルに自分の音を聴くようになって、気持ちの通りに音色の変わる楽器 の方が電気を通す楽器よりやっぱり面白いなと思ったことも、クラシックに立ち返るきっかけでしたね。


3.コンクールで、しっかりした自分を
 最初受けた年は2位だったんです(第2回日本ハープ・コンクール)。私はそれで満足だったんですが、母が がっかりして。その時病気をしていて、そのまま他界してしまいました。「次は1位を穫ろう」と、翌年も受けて、第3回で優勝しました。

 コンクールで競い合うには、すごく勉強 するし、エネルギーと集中力もいる。「絶対優勝するぞ」という気持ちで臨むなら、結果はどうであれ成長できる機会ですね。
 
 海外のコンクールは、最初駄目でした。慣れない場所で、外国人参加者の押しの強さにタジタジだったんです。公式楽器が10台位ある中から選んで、交代で練習時間を1時間ずつ貰える。時間が来て部屋に入って行こうとすると、まだ前のロシア人が弾いてるんです(笑い)。15分待っていい加減ノックするとあっさり出てく。今度は、あと10分位時間が残ってるのにアメリカ人に「私が練習するから、もうど いて」って言われたり(笑い)。自分を主張しないと勝ち残れない世界です。

 スペインで優勝した時は(第2回アルピスタ・ルドヴィコ・スペイン国際ハープ・コンクール)、楽器も遠慮しないで選んで、ロシア人が占拠する中にもズカズカ入って行って、「あの日本人には近寄らない方がいいわ」ぐらいに思わせておきました(笑い)。


4.現代曲とリサイタルへの取り組み
 ハープの為の曲はそう多くはありません。私が好んで現代曲に取り組むのは、作曲家が生きていて側にいれば、「こうしたほうが効果的では?」と話し合ったり、一緒に作って行く喜びがあるから。

 最近は、フルートやヴァイオリンのオーソドックスな組み合わせだけでなく、「これも行け
るんじゃない?」という、意外性にも挑戦しています。先日、コントラバス5台とマリンバでやった時は、すごく楽しかった。
 
 負担は大きいけどリサイタルも大事。頼まれた仕事にはどうしても「この曲を入れて下さい」というような制約があるけど、リサイタルは、例えば「今年はフランスもので行こう」とかテーマを決めて私自身がやりたい曲を、私自身が楽しむためにやる。自分のお城を造って行くようなものでしょうか。


5.教える立場になって
 今年の4月から芸大とで附属高校で教えています。大学生が4人と高校生が2人。初めは人に教えることなんてできる
かな、と思ったんですけど、意外に楽しいということがわかって(笑い)、1週間に1度の授業が楽しみなんです。

 生徒が優秀なこともあるんですけど、演奏がみるみる変わっていくんですよね。レッスンの度に上手くなっていくのを見ていると、自分まで成長しているような気になります。

 それに、彼女たちには色々言ってるけど、自分に照らし合わせた時、果たして私自身は出来ているか。よりいっそう自分にシビアになれる面もあります。
 
 ハープの教室の雰囲気は「華やかで和やかな女の世界」という点では、私がいた頃と変わりません。ただ、最近は学生
も自分を主張する傾向にあって、こちらが「こうじゃない?」と言うと「私ははこう思う」と解釈上のやりとりがある。一方的な授業ではないんです。私が「りさこさん」と名前で呼ばせてるので、言い易いのかもしれません(笑い)。
 4歳からピアノを始め、疑問を持つ暇も無くレッスンに励んだ。中学校1年生の時、NHKの人気番組「ピアノのおけい
こ」(講師は安川加壽子)に出演。「漠然とピアノで芸大に行くのかなと思ってましたが、一緒に出た子がものすごく上手くて、子ども心に、肩を並べては行かれないと思いました」。
 それからしばらくして、母と同じハープの道を進むことに。

写真は初めてハープに触れた時(右は指揮者で作曲家の早川正昭)。
ピアノからハープに転向する時には拍子抜 けするほど、あっさり許されたという。「どこかでは母も私にハープをやって欲しいという思いがあったのでしょう」
(2006年8月、NHK交響楽団スタジオにて)取材/岡田聖夏(産経新聞モーストリー・クラシック)
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